日本先端医療臨床応用学会セミナーの紹介ページです。学会活動コラムを掲載しています。

 

更新日:2017.07.6

日本先端医療臨床応用学会セミナー

2017年6月29日、紀尾井フォーラムにて、日本先端医療推進機構主催のセミナーが開催され、研究開発担当の奴久妻 智代子が講演しました。

演題:医療現場における補完代替療法としての全身温熱がもたらす役割について

『故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る』
これは、昔の事柄をよく学び、そこから新しい知識や道理を得て現在の事態に対処すること、という意味のことわざです。

人間を含む恒温動物にとって、発熱が基本的な生体防御反応であることは古来より広く知られており、腫瘍や感染症等様々な病気に熱を利用する試みが行われてきました。1927年にはオーストリアの医師Julius Wagner-Jauregg が、神経梅毒由来の麻痺性認知症の治療にマラリア予防接種の治療的価値を発見したことでノーベル生理医学賞を受賞し、体内に熱を発生させる発熱療法が一躍注目を浴びたのです。
確実に全身の体温を上げるために、赤外線、ラジオ波、マイクロ波、超音波、そして血液を加温してから体内に戻す体外循環等、種々の方法が試行されてきました。ところが、赤外線は皮膚表面への温熱作用は高いものの熱の深達度が低く、マイクロ波は水分量の多い深部組織を温めますが温度調節が難しく、またラジオ波は出力と加温部の温度調整条件が課題で、いずれも深部体温を治療温度まで安全に誘導し、一定時間維持するのは容易ではありませんでした。

そんな中、ヨーロッパや日本で長年親しまれてきた温浴の温熱効果や末梢循環亢進作用が見直され、2002年には温水を用いた深部体温制御装置が開発されました。これまで難しかった深部体温の精密なコントロールが可能になり、再現性と安全性を兼ね備えた全身加温法として、医療現場で使用されています。

温浴の役割は、温熱作用と末梢循環亢進作用により体内環境を整え、環境適応能力を鍛え、あらゆる治療を補完することにあります。治療前の身体のコンディショニングとして、また治療中は治療による副作用の軽減手段の一つとして、さらに治療後は再発予防の一環として、幅広く温浴を利用する試みが行われています。

温浴文化のはじまりは、紀元前2000年のメソポタミアといわれます。日本でのお風呂文化は6世紀に入って、仏教の伝来とともに始まったようです。古来より健康長寿をもたらすものとして人々に受け継がれてきた温浴を、古い習慣と軽視せず、あらゆる治療の基礎として、現代に生きる私たちも大いに活用しましょう。